二重小惑星探査計画 Hera

Spacecraft

2024年10月7日に米SpaceX社のFalcon 9にて二重小惑星の探査機である”Hera”が打ち上げられました.

Heraと2機のCubeSat 引用元 : https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/developing/hera.html

Heraは以下の2つの目的のために二重小惑星ディディモスとディモルフォスに向かいます.

  • プラネタリーディフェンス
  • 小惑星のサイエンスを研究し,太陽系形成の謎を解明する

それぞれの目的について説明していきます.

プラネタリーディフェンス

小惑星のような天体はごくまれに地球に衝突し,たとえ大きさが小さかったとしても大きな災害を発生させることがあります.例えば,2013年にはロシアのチェリャビンスクという都市に直径17mの小惑星が落ち,その際に生じた衝撃波により周囲100km程度でガラスが割れ,怪我人が数千人程度発生したという事件が起きました.さらに巨大な天体が衝突した場合には地球上の生物の大量絶滅を引き起こすこともあります.76%もの生物種が絶滅したと考えられている三畳紀末の大量絶滅(T-J境界)や,恐竜やアンモナイトが絶滅した白亜紀末の大絶滅(K-Pg境界)は直径10km程度の小惑星の衝突が引き起こしたとの説があります.このような事態を避けるために,地球に衝突しそうな天体を衝突前に事前に見つけて,衝突する前に対策をしよう,というのが「プラネタリーディフェンス」です.

2022年にはNASAが”DART”という探査機を小惑星ディモルフォスに衝突させ,小惑星の軌道を変更させることに成功したということで話題となりました.まさに映画「アルマゲドン」(小惑星を爆発させ,地球を救ったという映画)のような話ですね.

今回打ち上げられたHeraは,DARTが衝突した小惑星であるディモルフォスに接近・ランデブーをし,生成されたクレーターなどを調査することで,プラネタリーディフェンスに関する調査を進めることがHeraのミッションの一つになっています.

小惑星のサイエンス

小惑星のサイエンスを明らかにすることは,「太陽系の惑星がどのように形成され,進化してきたのか」という問いに対する答えを出すことができるためとても重要です.しかし実は小惑星は素性があまりわかっていないのが現状です.これまで世界各国で10機以上の探査機が小惑星をフライバイor周回軌道から観測しており,また日本の小惑星探査機「はやぶさ・はやぶさ2」やアメリカの小惑星探査機「OSIRIS-REx」によるサンプルリターンにより得られたサンプルの解析により徐々に素性が明らかになってきてはいますが,まだまだ分からないことはたくさんあります.そのような小惑星のサイエンスについて調査を進めることがHeraのもう一つの目的です.

今回のHeraミッションで期待されていることの一つとして,DARTが衝突して形成されたクレーターを調査することが挙げられます.これを調査することで小惑星同士の衝突のサイエンスを明らかにすることが期待されています.小惑星同士が衝突した際に,岩石はどのような挙動を示すのか,小惑星の硬さなどの物性が挙動にどのように関係してくるのか,という疑問に答えてくれることが期待されています.

また,ディディモスとディモルフォスは,ディディモスの周りをディモルフォスが公転している二重小惑星です.そのような小惑星を近くから観測することで,特に二重小惑星に関連するサイエンスを明らかにしようとしています.

日本のJAXAもサイエンス解明に協力しており,Heraに搭載する観測機器の一つとしてJAXAは熱赤外カメラ”TIRI”を開発しました.小惑星の熱物性を調査すること等を目的とした観測機器で,はやぶさ2に搭載された”TIR”よりもさらに感度・解像度が向上しているほか,多波長分光にも対応しているそうです.

今後のHeraの予定

Heraはヒドラジンを用いたスラスターによる軌道遷移と火星スイングバイを経て,今後2027年1月にディディモスにランデブーする予定です.また,”Milani”と”Juventas”という12kg程度のCubeSatも搭載しており,ディディモスに到着した後に分離する予定です.

まとめ

今回は二重小惑星の探査機である”Hera”について簡単に解説しました.プラネタリーディフェンスの発展と小惑星の謎解明に寄与してくれることを期待しています.

参考文献

[1]Hera Mission – ESA https://www.heramission.space/ 2024年10月20日閲覧

[2]Hera-Japan project – 二重小惑星探査計画 – JAXA https://hera.isas.jaxa.jp/wp-hera/ 2024年10月20日閲覧

[3]吉川真,「プラネタリーディフェンスの現状と課題」日本航空宇宙学会誌,72巻,4号,p. 121 – 127,2024年

コメント