エウロパクリッパー (Europa Clipper)

Spacecraft

日本時間で2024年10月15日に米SpaceX社のFalcon Heavyにて木星の衛星エウロパを探査する”Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)”が打ち上げられました.

A spacecraft hovers over a reddish striped moon with planet Jupiter in the background.
エウロパを探査するEuropa Clipperの想像図.Credits: NASA/JPL-Caltech

エウロパ・クリッパーは

  • エウロパ表面の氷の層を調査すること
  • エウロパの地下にある液体の水の海を調査すること
  • エウロパの組成と地質を明らかにすること

の3つを目的としています.これらの調査を実施することで,地球以外における生命の可能性を探すことができるのです.

エウロパを探査する価値

なぜ数ある天体の中からエウロパが選ばれたのでしょうか.それはエウロパには地球外生命体がいるかも?と考えられているからです.

これまで「パイオニア10号」と「パイオニア11号」,「ボイジャー1号」,「ボイジャー2号」,「ガリレオ」,「ニュー・ホライズンズ」,さらには「ジュノー」が接近し探査を実施しており,地球からも望遠鏡による様々な観測が実施されてきました.これらの調査の結果から,エウロパの表面は厚さ15~25km程度の氷で覆われており,その下には水が液体の状態で存在する可能性が高いことが分かってきました.

現在の生物学によれば,「液体の水が存在すること」というのは生命が誕生する必要条件として考えられています.水はエネルギーや廃物を溶解することができる媒質として,そして化学物質を運ぶ媒質として,さらに化学反応物そのものとして働くことができるため,生命活動に無くてはならないものだと考えられています.そのため現在の地球外生命体探査では,まずは水の存在の有無を調べることが多いです.生命の存在には水は絶対必要なのだから,まずは水の存在する天体を探して,それからそこに生命がいるかを調べよう,という考えです.

このような理由から,液体の水が存在するとされるエウロパは,地球外生命体が存在し得る有力候補として考えられています.しかし,現段階の情報で地球外生命体の有無を判断することはできず,まだまだ調査が必要な段階です.そこで今回エウロパに探査に行くことになったというわけです.

これらの調査をするために,エウロパ・クリッパーは以下の9つの観測機器を搭載しています.

  • カメラ(可視光・赤外・紫外)
  • 赤外分光器
  • 磁気計
  • プラズマ計測器(ファラデーカップ)
  • 重力分布計測器
  • 水検知用レーダー
  • ガス質量分析器
  • ダストアナライザー

NASA史上最大の探査機え

A gray model of Europa Clipper hovers above a yellowish orange illustration of a basketball court.
エウロパ・クリッパーバスケットボールコートの比較 Credits: NASA/JPL-Caltech

エウロパ・クリッパーはNASA史上最大の深宇宙探査機です(地球周回の人工衛星であればこれより大きなものがいくつか存在します).

最も目を引くのは左右に伸びる太陽光パネルでしょう.太陽光パネルは1つの大きさが58 m2程度もあり,それが2個付いて合計116 m2程度の面積の大きさがあります.バドミントンのコートがおおよそ80 m2程度なので,その1.5倍程度というとイメージできるでしょうか.これほど大きい太陽光パネルを搭載した宇宙機はなかなか見かけません.しかし,エウロパと太陽の距離は地球と太陽の距離の約5倍あります.太陽からの距離が遠くなるほど太陽光エネルギーは小さくなってしまうので,発電量は700W程度だそうです.これほど大きな太陽光パネルを使用していてもドライヤー(1000 W程度)すら使えないほどの電力しか発電できないのですね.深宇宙探査の厳しさが分かります.

次に目を引くのは探査機の上に載っているお皿のような形をしたものでしょう.これはアンテナです.直径3メートルのアンテナによって,エウロパと地球間(なんと7億km以上!!!)の通信を実現しています.

そのほかの特徴として,探査機全体の質量は約6トンであり,そのうちの約2.7トンはロケットエンジンを動作させるための燃料です.また,木星近傍は放射線が放射線量が高く,それにより衛星内部の電子回路がダメージを受けてしまうのを防ぐために,衛星の主要部は厚さ9.2mmのアルミ-亜鉛合金で覆われています.

今後の予定

エウロパ・クリッパーは日本時間で2024年10月15日に打ち上げられました.2025年の2月に火星スイングバイ,2026年12月に地球スイングバイを実施し,2030年4月に木星に到着する予定です.そしてそこから,複数の木星衛星でスイングバイを実施しながら,エウロパに近づいていきます.2031年春には最初のエウロパフライバイを実施し,科学観測する予定です.フライバイ観測は50回程度実施する予定のようです.(フライバイの最大高度は25km程度).

まとめ

今回は木星の衛星の一つであるエウロパを調査する”Europa Clipper”について簡単に解説しました.果たして地球外生命体の証拠をつかむことができるのか,今後の調査に期待ですね!

参考文献

[1]Europa Clipper – NASA Science https://science.nasa.gov/mission/europa-clipper/ 2024年10月24日閲覧

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